電脳遊戯 第9話 |
戻ってきたC.C.は、まだ濡れた髪をガシガシと乱雑にバスタオルで拭きながら、手に持っていた袋からいくつもの飲み物をだした。 「飲みたければ飲め」 C.C.は空いていたテーブルにそれらを並べ、こっそり買いだめていたのだろうか、今まで見たこともないピザ味のスナック菓子もそこに並べた。 その後画面を確認し、ルルーシュが寝ている姿に安堵したように口元を緩めた。 「枢木スザク、悪いが私も少し休む」 何せ、こいつが囚われてから碌に休んでないからな。と、大きな口を開け恥じらいなど欠片もない大きな欠伸を一つしたあと、そのままテーブルに突っ伏す形で眠り始めた。その姿を嫌そうな眼で見ていたスザクは、視線を画面に戻した。そして静かな寝息を立てながら眠るルルーシュを眺めながら、知らず息を吐いた。 それから3時間後の22時。 仮眠をとっていたロイドとセシルが戻ってきた。 「あれぇ?ジェレミア卿は?」 もう戻ってる時間じゃないのかなぁ? 「まだのようです」 あの忠義の騎士のことだ。戻ったら真っ先にルルーシュの状態を確認するはずだ。手が離せなかったとしても、何しらの連絡が来るだろう。 「スザク君もだけど、最近手間取ってるみたいだねぇ」 スザクがスッと席を立ったので、ロイドはその席に座った。 セシルの席でC.C.が眠っている為、セシルはどこからか椅子を持ってきて、ロイドの画面が見える位置に置くとスザクにも座るよう促した。 「・・・あれえ?ちょっとスザク君、いつの間に陛下、通路を抜けたの?」 ここを出て行く時は白い通路だったのに、今居るのは緑の草原で、ルルーシュは草原に横たわり、眠っている。 その様子を、ロイドとセシルは驚きの眼差して見つめていた。 「C.C.が何かに気がついたらしくて、3時間ぐらい前にここに移動しました」 「お~め~で~と~。今度は休憩できる場所のようだねぇ。でも、どうやって出たのかなぁ。う~ん、気になるねぇ」 気づいたなら起こしてくれればいいのに。 ロイドは若干不貞腐れながら、テーブルに置かれていたジュース類から缶コーヒーをとり、口にした。 「陛下は、今お休みに?」 草原に横たわり、これだけの声が聞こえていはずなのに何も反応せず、死んだように眠っているルルーシュが心配なのだろう、トラップか何かに引っかかって倒れているのではないかと、不安を滲ませた声でセシルが聞いてきた。 「だいぶ疲れていましたからね。ここに出てからずっと寝ています」 「あの場所ではろくに休めなかったものね。本当に抜け出せてよかったわ」 セシルは穏やかに眠るルルーシュをみて、柔らかく笑った。まだ少し隈は残っているが、顔色はいい。ロイドもいくらか元気を取り戻していた。 それから30分ほど後、ジェレミアが戻ってきた。 どうやらロイドが発注したモニター関係が届いていたらしく、そちらの受け渡しなどで捕まっていたらしい。モニターをギアス兵に運ばせ、ロイドとセシルを手伝いながら寝室に設置していいると、その音でC.C.は目を覚まし、今はじっとモニターを見つめていた。 ルルーシュの方へ音が流れないよう、こちら側のマイクのスイッチは消したため、これらの作業に気づくことなくルルーシュは眠っているようだった。 ベッドではなく地面・・・ゲーム内の地面だから、実際とは違うのかもしれないが、そんな場所で熟睡する神経の図太さに最初は呆れたが、連日、寝る間を惜しんでゼロレクイエムの準備をしていたのだから、その疲れも一気に出たのかもしれない。 購入したモニターは、この寝室の壁を覆い隠すほどの大きさの物が4枚。それとは別に部屋の中央にも大きなモニターが設置された。ギアス兵を退室させた後、ロイドとセシルが手早くプログラムを打ち込む音が聞こえはじめ、そしてさらに30分後、全てのモニターに映像が映し出される。 「うん、いい感じだねぇ。見ての通り、陛下の周りを映し出してる四方の壁には陛下の姿は映さないようにしている。でも中央と、僕たちが見てる画面には陛下が映る様にしてるからね」 陛下の姿が移ると、その場所が見えなくなるからね。 四方の画面に映し出されたのは一面の草原、それも等倍だという。 中央の画面は今まで見ていたモニターの倍程度のため、ルルーシュの姿は小さなままだったが、今まで見ていた画面よりは大きく映し出されていた。やはり鮮明さに欠ける映像のため、拡大されたことでより一層ぼやけて見える。横になったままのルルーシュの顔もぼやけていて、これでは表情も解らない。 ロイドとセシルはこれから画像の解像度を上げるためのプログラムを解析するのだと、キーボードを物凄い速さで打ち込み始めた。 そちらは二人に任せ、床一面の散乱していた配線をまとめた後、スザク、C.C.、ジェレミアは椅子を中央画面が設置されたテーブルへと移動させた。 そこにもマイクが設置されている為、セシルとロイドが使用しているパソコン同様ルルーシュと会話ができるようになっていた。 「さて、そろそろ眠り姫を起こす時間だな」 まだ休ませたいところだが仕方がない。 C.C.がパネルを操作すると、マイクのスイッチが全てONになる。 「ルルーシュ、そろそろ起きろ」 そのC.C.の声でルルーシュは目を覚ましたらしい。 画面がぼやけてよく解らないが、今まで肌色だった場所に紫色が現れた。それはルルーシュの瞳の色。完全に目が覚めていないのか、瞳を数度瞬かせるだけで動かなかった。C.C.は「完全に寝ぼけているから、1、2分はこのままだろう」と言いながら、炭酸飲料を口にした。 C.C.は毎晩ルルーシュと共にここで就寝している。 だから確信があるのだろう。 折角治まっていた苛立ちがふつふつとわき起こり、スザクは思わず眉を寄せた。 彼女の言葉通り1分後、ようやくルルーシュは身を起こした。 そして辺りを見回し、自分の置かれている状況を再確認する。 「お前が寝ている間に、何も変化は無かった」 ルルーシュが知りたい情報だけをC.C.は口にした。 体調を気遣うことも、辺りの情報を聞く素振りもない。 『そのようだな』 「モニターも届いて、こちらの準備も整ったし、軽く休憩も終えた」 『そうか、ならばここを探るか』 ルルーシュは辺りを見回した後、足を進めた。 特に変化のない草原を、ルルーシュはただ歩く。 こんな奇妙な場所に投げ出されても泣き言一つ言わず、終わりの見えない景色に恐怖の感情さえ見せない。その姿にもスザクは苛立ちを憶えた。 「ああ、C.C.,ちょっと聞いてもいいかなぁ」 ロイドは視線をモニターに固定し、手も忙しなく動かしながら訪ねてきた。ルルーシュ同様器用な男だと思いながら、C.C.はそちらに視線だけを向けた。 「なんだ?」 「さっきの場所、どうやって出たんですかぁ?」 その内容は知りたいと、ロイドを除く全員の視線がC.C.に向かう。 「ああ、あれか。答えは影だ」 「影?」 「そう、影。たまたまルルーシュが一歩下がった時に、その足元の影に違和感を感じた。そこでいろいろ試してみたところ、影の種類が3つある事が解った。薄い影は外れ。濃い影・・・つまり普通の影が足元にあった時は正しい道を進んでいた。前進では常に薄い影、ルルーシュが横あるいは後ろや上下を見ながら歩いた場合も同様に薄い。濃い影が落ちるのは、ルルーシュがまっすぐ前方を見ながら、後方へ下がった時のみ。だから私はそれを確認しながらルルーシュに指示を出したわけだ。ちなみに全く影の無い時は、トラップの発動を示していた」 落とし穴、頭上から岩石が落下、刃物が振りおろされたり、左右子壁が突然動きだし、押しつぶそうとしたり。 どれも即死トラップだ。 だが、間違えた足を床につけなければ回避が出来る罠。 「あー、だから陛下の足元にしか影が無かったのかぁ」 照明らしいものが無いのに、常に影はルルーシュの足の下にあった。 納得したという顔でロイドは頷き、セシルは再びプログラム画面と向き合った。 「今度はもう少し解りやすい物であることを祈るよ」 それでなくても不鮮明な画面なのだ。影の僅かな変化を見るために画面を凝視しすぎて目が痛い。 C.C.はピザ味のポップコーンを口にしながらそうぼやいた。 |